2022.07.10 / 相続対策パターン

相続対策のため、生前に不動産を売却される方が少なくありません。
先に不動産を売却しておけば、相続税の納税資金を用意できて相続発生後の遺産相続トラブルも避けやすくなるなどのメリットがあります。

今回は生前に不動産を売却するメリット売却をおすすめするケースをご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

1.生前に不動産を売却するメリット

現在不動産を所有している方が生前に売却すると、以下のようなメリットがあります。

1-1.管理が不要になる

不動産を所有していると、管理をしなければなりません。建物が老朽化して他人に迷惑をかけてしまったら、所有者が損害賠償義務を負います。高齢になると管理が大変だと感じることが多くなります。

売却してしまえば管理の必要はありませんし現預金なら持っているだけなので手間はかかりません。

1-2.費用がかからなくなる

不動産を所有していると、管理費用や税金、修繕費などの費用がかかります。

特に活用もしていないなら売却により費用がかからずメリットを得られます。

1-3.納税資金を用意できる

資産内容が不動産などの現金化しにくい財産ばかりの場合、相続人が納税資金を用意できず困ってしまうケースが少なくありません。相続税は基本的に現金一括で払わなければならず、不動産そのものでは支払えないからです。

不動産をあらかじめ現金にしておけば、相続人が相続税を払いやすくなるメリットがあります。

1-4.まとまった資金を得られる

不動産を売却すると、まとまった現預金を入手できます。元気なうちに旅行をしたりすきなものを買ったり美味しいものを食べたりなど、人生を謳歌する資金にできます。

不動産のまま置いておくよりもメリットを多く感じることができるかもしれません。

1-5.相続トラブルを避けやすくなる

遺産として不動産を遺してしまうと、相続人間で遺産相続トラブルが発生する可能性が高くなります。

不動産は現預金のように割合的に分けられません。現物分割、代償分割、換価分割という3つの方法の中から相続人が選んで全員が納得するように分割しなければならないのです。

相続人間で意見が合わず、トラブルになってしまう例が多々あります。

生前に売却しておけば、相続人間における相続トラブルを避けやすくなります。

相続人に負担をかけたくない方は、生前の不動産売却を検討する価値はあります。

2. 生前に不動産を売却する際の注意点

生前に不動産を売却すると、税金の面でデメリットとなる場合があります。相続税制では、現預金より不動産の方が評価額は低くなっているのです。

土地の場合にはおおむね8割程度、建物の場合にはおよそ7割程度に下がります。

「小規模宅地の特例」を適用すると、さらに8割や5割評価額が下がる可能性があります。

現預金に替えるとこういった減税制度が適用されないので、相続税額が高額になる可能性があります。

ただし基礎控除の範囲内であればいずれにしても相続税は発生しないので、気にする必要はありません。配偶者控除を適用して相続税を0にできる場合も同様です。

配偶者控除…配偶者が相続するときに「法定相続分」または「1億6千万円」までの相続に相続税がかからなくなる制度

生前に不動産を売却すると得になるのかどうかについては、個別的な判断が必要なので税理士に相談しましょう。

3.生前の不動産売却をおすすめする状況

土地の場合、相続税路線価または評価倍率という方法で不動産を評価します。
相続税路線価とは、市街地的な場所における道路に面した土地の1平方メートルあたりの単価です。国税庁が全国の相続税路線価を定めていて、毎年1回改定されます。

相続税路線価や評価倍率で評価すると、土地価格は概ね時価の8割程度になります。
現預金がある場合、土地を購入するだけで評価額を2割程度減らすことが可能となるのです。

2-2. 建物の相続税評価方法

建物の場合、土地以上に相続税評価額が下がる可能性があります。
建物の相続税評価は「固定資産評価額」となるためです。

固定資産評価額は不動産のある場所の自治体が定めており3年に1度改定され、時価と比べると約7割程度の金額です。
土地と建物をあわせて買うと、大きく節税できる可能性があります。

3.土地には小規模宅地の特例が適用される

加えて土地には「小規模宅地の特例」という減税制度が適用されるケースもよくあります。

小規模宅地の特例とは、一定の要件を満たす場合において土地の評価額が5割または8割減となる特例です。

たとえば1000万円の土地に8割減の特例が適用されると、土地の評価額は200万円となります。

現預金をそのまま持っているよりも大幅に評価額が下がり、節税メリットが大きいとくなります。

なお小規模宅地の特例の適用要件は、土地の利用状況などの個別要素によって変わってきます。

詳しくは税理士に相談してみるのもよいかもしれません。

4.賃貸するとさらに不動産の評価額が下がる

不動産を購入しても自分では使わない場合、賃貸に出す方も多くいます。

不動産を賃貸すると「借地権割合」や「借家権割合」を差し引けるので、さらに評価額が下がります。

借地権割合とは、土地を借りている人の権利の割合です。全国のエリアによって具体的なパーセンテージが異なり、国税庁が定めています。

借家権割合は全国一律で3割となります(2022年現在)。

たとえば借地権割合が3割の場所で土地を賃貸すると、それだけで土地の評価額を3割下げられるのです。現預金にはこういった制度はありません。不動産ならではの節税方法といえます。

5.ローン額を差し引ける

不動産を購入したりアパートを建築したりする際には、ローンを利用される方が多数です。

被相続人にローンがあると、その分は遺産額から差し引きができます。

たとえば資産が1億円あってもローンが3000万円あれば、遺産は7000万円と評価されるのです。 不動産投資を行う際にローンを設定してこのルールを適用すると遺産全体の評価額が下がるので、さらに節税できる可能性があります。

6.納税資金の準備は必要

確かに不動産を購入すると大きく相続税を節税できる可能性がありますが、注意点も確かめておきましょう。

それは「相続税の納税資金を残しておく必要性」です。

相続税が発生したら、相続人は現金一括で相続税を払わねばなりません。

現預金を残さずすべて不動産の購入費用に充ててしまったら、相続人が相続税を払えない危険が発生します。相続税を払わなかったら税務署から督促が来ますし、ときには高額な延滞税や加算税を課される可能性もあります。

不動産を購入するとしても現預金をすべてつぎこむのではなく、余裕をもった投資を行いましょう。