
相続人の中に認知症の人が含まれていると、その人を交えた遺産分割協議が難しくなる可能性があります。
法律行為をするために最低限の判断能力が失われている場合、遺産分割協議書に署名押印しても無効になってしまうためです。
進行した認知症の方が相続する際には、家庭裁判所で「成年後見人」を選任しなければなりません。
認知症の方が遺産分割協議に参加できないケースがある
相続人の中に重度な認知症の方がいると、そのまま遺産分割協議を進めるのは危険です。
認知症が進行すると自分では法律行為の意味がわからなくなり「意思能力がない」とみなされるためです。
意思能力とは、自分の言動の意味を認識するための能力です。法律上、意思能力がなければ一人で有効な法律行為ができません。
認知症が進行して意思能力まで失われていたら、遺産分割協議に参加しても意味がわからず遺産分割協議書に署名押印もできないのです。重度の認知症の方が署名押印した遺産分割協議書では不動産の相続登記や預貯金の払い戻しなどができません。
一度は受け付けてもらえても、後に争いが生じたときに無効になってしまうおそれがあります。
すべての認知症のケースで参加できないわけではない
ただし「すべての認知症の相続人が遺産分割協議に参加できない」わけではありません。
認知症の程度が軽微で自分でも法律行為の意味がわかるなら、1人で有効に遺産分割協議を進められます。
相続人に認知症の方が含まれている場合、遺産分割協議を進められるかどうかについては医学的な見地と法律的な見地からの専門的な判断を要します。
進行した認知症の方を遺産分割協議に参加させる方法
進行した認知症の方が遺産分割協議に参加するには、家庭裁判所で「成年後見人」を選任しなければなりません。
成年後見人とは、自分で適切に財産管理できなくなった方のために代わって財産管理をしたり本人の身上監護を行ったりする人です。成年後見人には本人の代わりに法律行為を行う代理権が認められます。
家庭裁判所で成年後見人が選ばれると、その人が本人の代わりに遺産分割協議に参加して遺産分割協議書に有効な署名押印ができます。
成年後見人が署名押印した遺産分割協議書があれば、相続登記や預貯金の払い戻し、株式の名義変更などの各種の相続手続きを進められます。後に「無効」といわれて効果が覆ってしまうリスクもなくなります。

成年後見人を選任する方法
成年後見人を選任するには、家庭裁判所で申し立てをしなければなりません。
申し立て先の家庭裁判所は、本人の住所地を管轄する家庭裁判所です。
以下のような書類が必要なので用意しましょう。
- 申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 財産目録
- 収支予定表
- 後見人候補者事情説明書
- 親族の同意書
- 本人の戸籍謄本、住民票
- 登記されていないことの証明書
- 診断書(専用書式)
申立書や事情説明書、財産目録などは申立人が自分で作成しなければなりません。難しい場合には、弁護士や司法書士へ依頼しましょう。
また診断書は専用書式があります。事前に家庭裁判所から取り寄せて担当医師へ渡し、作成を依頼しましょう。
費用は以下のとおりです。
- 収入印紙800円
- 郵送用の郵便切手数千円分
- 登記費用2600円
まれに本人の精神鑑定が必要と判断されると、鑑定費用として5~10万円程度加算されます。
なお成年後見人の候補者は親族であってもかまいません。相続人になっていない親族を候補者に立てるケースもあります。
成年後見人を選任する際の注意点
成年後見人を選任する際には、以下の点に注意しましょう。
遺産分割協議が終わっても任務が終了しない
成年後見人の任務は遺産分割協議が終わっても終了しません。本人が死亡するか判断能力を回復するまで継続する必要があります。
後見人の間は定期的に家庭裁判所への報告をしなければならないので、親族に負担がかかる可能性があります。
専門家が選任される可能性がある
親族間で争いがあったり複雑な対応が必要だったりする場合には、親族ではなく司法書士や弁護士などの専門家が選任される可能性があります。必ず希望とおりの候補者が成年後見人になれるとは限りません。
費用がかかる
成年後見人に専門家が選任されると、費用がかかります。おおむね毎月2~4万円程度になると考えておきましょう。
相続不動産を売却する際にも成年後見人が必要
不動産の売却は重大な法律行為です。進行した認知症の方がいる場合、成年後見人を選任しないと売却を進められません。また居住用の不動産を売却する場合、成年後見人がいても個別に家庭裁判所の許可が必要となります。
弊社では認知症の方が相続して成年後見人を選任された事案でも対応できますので、相続不動産に関するご相談はお気軽にお問い合わせください。